COMMUNITY 「映画の保存と復元に関するワークショップ」の記録

トークセッション「映像アーカイブのための資金調達の壁を突破する!」

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日本映像アーキビスト協会の前身「日本映像アーキビストの会(仮称)」では、呼びかけ人が中心となり、様々な勉強会を企画・実施してきました。特に、元・大阪芸術大学教授の太田米男先生が中心となって始まった「映画の復元と保存に関するワークショップ」では、2016~2019年まで、ワークショップの一枠を呼びかけ人の企画に提供いただき、公開トークセッションを担当しました。

ここでは、2019年11月に「映画の復元と保存に関するワークショップ2019」で行われたトークセッション「映像アーカイブのための資金調達の壁を突破する!」の採録を公開します。
(2019年11月17日/於: 京都経済センター 6階会議室6C・D)


■登壇者プロフィール

三好大輔
株式会社アルプスピクチャーズ代表取締役。2009年より、多世代の地域住民が参加する「地域映画」づくりを日本全国で取り組んでいる。

中西美穂
大阪アーツカウンシル統括責任者として大阪市や大阪府で行われる文化芸術活動支援に携わっている。2018年より現職。

廣安ゆきみ
READYFOR株式会社 アート部門 リードキュレーター。2018年にアート部門を立ち上げ、多くの芸術文化に関わるクラウドファンディングを担当している。



羽鳥隆英(司会):「映像アーキビストの会」呼びかけ人の羽鳥と申します。本日は株式会社アルプスピクチャーズの三好大輔さん、大阪アーツカウンシルの中西美穂さん、READYFOR株式会社の廣安ゆきみさんにお越しいただきました。現在、産・官・学の多様な映像アーカイブ事業が同時多発的に展開中ですが、収集した映像資料(群)を持続可能的に保存・活用するための資金調達が共通の悩みの種と存じます。この資金調達の壁を突破するため、現在の課題を共有し、解決策を編み出すための第一歩を印せればと、本日のトークセッションを企画した次第です。映像アーカイブ事業を実践するお立場の三好さん、実践者への出資を審査するお立場の中西さん、実践者と出資者を繋ぐお立場の廣安さん、それぞれのお立場のお話をお聞かせいただきます。お一人目は三好さん、よろしくお願いします。


■地域映画づくりの10年

三好大輔: みなさん、おはようございます。私は安曇野(現在は松本)を拠点とした映像制作会社を営んでおります。8mmフィルムによる「地域映画」という市民協働の映画づくりを主に自治体と組んで活動しております。また、東京藝術大学大学院で専門研究員(2019年当時)として、活動も行っております。
今日は「映像アーカイブのための資金調達の壁を突破する!」というお題目で、自分では突破できているかどうかすごく疑問ですけれども、司会の羽鳥さんからは「三好さんがホームムービーでやっていけているのが不思議でならない」と言われまして、僕がこの10年、ホームムービーと向き合っていく中で自分なりにどのように資金調達をしてきたかをお話ししたいと思います。まずは、僕が手がけているホームムービーのプロジェクト、地域映画がどのようなものか、ご紹介します。

『よみがえる安曇野1』トレーラー

こちらは長野県安曇野市で、市民から集めた8mmフィルムを50分程の映画にしたものです。この映画に登場する8mmフィルムは全て、安曇野市にお住いの方々が記録した昭和のホームムービーです。映像をご提供いただいた方には、ご家族が集まるタイミングで上映会を開いてインタビューをしました。そして、BGMになる音楽は、市民合唱団や小中学校の合唱部、個人など、幅広い世代の方に参加いただきました。最高齢は92歳のハーモニカ奏者の方です。他にも題字を書いていただいたり、集まったフィルムの調査などにも、地域の方に関わっていただいています。

一般的に、映画制作において監督はピラミッドの頂点にいると思いますが、地域映画づくりの現場では、監督がいちばん下にいて、そこにあるものを掬い取っていくといったイメージです。
このように、昭和時代の市民が記録した8mmフィルムを発掘し、地域の方々が参加しながら作る映画を「地域映画」と呼んで、活動しております。完成した地域映画は、小学校の授業、高齢者施設や公民館・図書館での貸し出し、郷土資料館の映像資料として、幅広く活用されています。

この10年間、年1本くらいのペースで地域映画をつくり続けてきました。これから、各プロジェクトがどのように成立してきたのか、資金調達の面からお話ししたいと思います。

作成:三好大輔 2019年

●『8ミリの記憶』(2010)
最初に手がけたのは10年前、2009年の東京都墨田区のプロジェクトです。当時、僕は映像作家として個人で活動をしていたのですが、「地域の芸術文化活動に助成金を出すプログラムの募集があるよ」と友人が紹介してくれたのが墨田区を拠点とした保険会社が行う助成プログラムで、これが地域映画の活動をはじめるきっかけとなりました。「墨田区に埋もれている8mmフィルムを掘り起こして映画をつくる」という企画を提案して採択され、1年間の活動資金を獲得し、初めての映画づくりが始まりました。手探りで人づてにフィルムを探し求め、集まったフィルムは約100本。無事に完成すると、この映画が評判となり、その後の活動に広がっていきます。

あだちのきおく』(2013)
2本目は東京都足立区で製作した「あだちのきおく」です。北千住にキャンパスがある東京藝術大学の音楽環境創造科の先生からお声がけいただきました。足立区80周年記念事業として大学から企画を提案し、採択されました。区民から8mmフィルムを集めるだけでなく、BGMのために懐かしいメロディも集め、それらを芸大の学生が編曲して録音するという区民参加にチャレンジした作品にもなりました。

●『記憶~丸の内から未来へ~』(2013)
3本目は、東京藝術大学と三菱地所が丸ビルを舞台に行うアートイベント「GEIDAI ARTS in TOKYO MARUNOUCHI」のプログラムのひとつとして映画製作を行いました。製作費用は三菱地所にご負担いただきました。丸の内のフィルムを発掘して映画をつくるプロジェクトでしたが、丸の内というエリアはビジネス街なのでフィルム収集は難航しました。困っていた時期に参加した「映画の復元と保存に関するワークショップ」で東京国立近代美術館フィルムセンター(当時)のとちぎあきらさんと出会い、戦前のフィルムを中心とした丸の内の映像をお借りすることで、映画の完成にこぎつけることができました。

●『東京駅100年の軌跡』(2014)
次は、東京ステーションギャラリーで行われた「東京駅100年の記憶」展のプロジェクトです。これは、とある企業の新社屋竣工記念パーティでJR東日本の重役の方とお会いしまして、そこからプレゼンのきっかけを頂き、実現したプロジェクトです。当時、東京駅はプロジェクションマッピングなどで話題を集めていましたが、「東京駅の100年の歴史を映像で紐解く」という視点が評価されたと思います。JRに保存されていたフィルムを中心に、フィルムセンター所蔵のフィルムを多数お借りしました。企業と映像アーカイブがコラボするいい形になったと思います。

●『よみがえる大船渡』『よみがえる浪江町』(2014)
藝大の非常勤講師として、様々な大学のプロジェクトにも携わりました。岩手県大船渡と浪江町の作品は、復興庁が行う『「新しい東北」先導モデル事業』の中で、藝大による企画のひとつとして製作しました。大船渡では被災したフィルムを復元するなど、フィルム保存としても意義のある活動となりました。

●『小豆島の記憶』(2016)
墨田のプロジェクトの頃から僕の活動を応援してくれていて、香川県小豆島でアートイベントなどを行なっているアーティストの友人が「小豆島で三好さんの8mmの活動をやりたい」と町役場に一緒に行ったところから映画づくりが始まりました。

●『よみがえる安曇野』(2016/2018)
こちらは冒頭で紹介させていただいた安曇野市のプロジェクトです。2011年の東日本大震災の後、家族で安曇野に移住したのですが、やはり「自分たちの暮らす土地の昔の姿を知りたい」と思っていたところ、安曇野市が市制施行10周年の市民企画を募集しているというので、地域映画に興味をお持ちの地元の方々にお声がけし、20代から80代のメンバーで構成される「あづみのフィルムアーカイブ」という市民団体を結成。申請が無事に採択され、映画づくりが始まりました。単年度事業でしたが、製作した映画が評判になり、翌年は8mmフィルムのデジタル化の業務を請負い、その翌年には2本目の地域映画製作が行われました。

●『竹田ん宝もん』(2018)
今年完成したばかりの大分県竹田市のプロジェクト「竹8シネマプロジェクト」は、竹田市に移住した友人が地域おこし協力隊として活動していて、「8mmの地域映画を作りたい」と声をかけてもらったのがきっかけです。市役所を始め、市民の方々の協力を得ながらプロジェクトを立ち上げ、2年近い活動に広がりました。竹田市と大分県にサポートいただきました。

●『カサマノシネマ』
続いて、笠間焼で有名な茨城県笠間市。現在進行しているプロジェクトです。笠間市に移住した友人夫婦が「8 mmの地域映画を笠間でつくりたい」と市役所に掛け合ってくれたところ、なんと熱意ある市の職員さんがわざわざ安曇野まで話を聞きにいらしてくれて、地元大学生たちを中心としたプロジェクトに発展していきました。

●『けせんシネマ』
そして、目下始まったばかりのプロジェクトは、岩手県大船渡高校の高校生たちとの地域映画づくりです。高校生を主体にしながら、けせんシネマと題し、気仙地域である大船渡市と陸前高田市、住田町の3つのエリアからフィルムを集めます。けせんシネマは地元の新聞社が事務局となって、地域企業などに協力を呼びかけています。自治体の予算で行うことが多い地域映画ですが、より広く企業や個人のサポートによる資金調達も必要と考えています。

作成:三好大輔 2019年

■今後の課題
こうしてこの10年の間に、墨田で始まったプロジェクトが全国に広がっていきました。成立しているプロジェクトの後ろには、たくさんの着地できなかった案件もあります。様々な自治体で活動を続ける中で、市長とお会いできる機会があれば、直接プロジェクトの説明を重ねてきました。それは市長が道筋を作ってくれる可能性があるからです。ただ、振り返って考えてみると、実現できたプロジェクトは、それ以上に地域に根ざして活動している方々の熱意が大きかったことに気づきます。また、僕自身が人との出会いをチャンスに変えてきたのも事実です。小さな出会いやきっかけを見逃さず、時に図々しいくらいにアプローチしていくことで拓けてきた案件もあります。資金を調達する前に、活動の意義を高めていくこと、それが結果として資金を得ることにつながっていく、そんな風に実感しています。

今後は、地域映画づくりを続けていきながら、8mmフィルムを中心としたホームムービーを保存・活用する新たな仕組みが必要だと考えています。まだ具体的なアイデアに落とし込めていませんが、近い将来、形にしたいと思っております。

以上、長くなりましたが、ご静聴ありがとうございました。

羽鳥: ありがとうございます。昨今は映像アーカイブ事業の実践者の経験を整理し、大学の講義の枠組や「映像アーキビスト」資格の枠組に落し込もうと模索する動向も見られますが、三好さんがお話しされた、まさに「下から目線」のコミュニケーション能力が講義や資格の枠組に落し込めるか、個人的には懐疑的ですし、今後の課題の核心のように感じます。お二人目は中西さん、よろしくお願いします。

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