COMMUNITY 「映画の保存と復元に関するワークショップ」の記録

トークセッション「映像アーカイブのための資金調達の壁を突破する!」

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■公的芸術支援における“映像アーカイブ支援”の可能性 アーツカウンシルの視点から

中西美穂: こんにちは、大阪アーツカウンシルの中西といいます。本日は映像アーカイブという私にとって未知の世界にお誘いいただき、ありがとうございます。私は今回、文化支援の専門として参加しています。三好さんのお話を聞いて、市長に会いにいくという発想がアーツカウンシルとは違うと感じています。今回はそういうお話もできたらと思います。

■アーツカウンシルとは
アーツカウンシルとは、第二次世界大戦後のイギリスに始まった、政府と一定の距離をとる(アームズ・レングス)、専門機関のことです。なぜ政府と一定の距離をとる必要があるのか。それは第二次大戦中のヨーロッパで、政府主導で芸術がプロパガンダとして使われたことを反省し、芸術や芸術家が政府の言いなりになるのではなく、芸術の自立性を尊重するために、第三者による組織が必要だからです。つまり、公共の芸術というのは、政府の言いなりになるのではないという思いが出発点となっています。これは近年、話題になっている映画祭の上映中止や助成金不交付の問題を受けて、映画監督の是枝裕和さんが「公共・公益という言葉の価値が、全部国益に回収されてきている」と発言されていましたが、そういうことと繋がるものです。

発祥の地のイギリスのアーツカウンシルは、2012年のロンドンオリンピックの文化プログラムを戦略的に行って大成功を収めたことで有名です。日本も来年(2020年)、東京オリンピックを迎えるにあたって、スポーツのみならず文化もやらなくちゃということで、アーツカウンシルにもにわかに注目が集まり、各地に誕生しています。しかしながら、イギリスは戦後にアーツカウンシルができて70年近く経ってからオリンピックを迎えましたが、日本は早いものでも2010年代からアーツカウンシルを始めたので、10年にも満たないまま、来年のオリンピックを迎える状況です。さて、その日本のアーツカウンシルの効用はというと、だいたいはご想像の通りかもしれません。公共の立場でどう芸術を支援するかという議論のないまま単なる文化への助成金事業を実施する団体のような、語弊を恐れずに言えば従来の文化財団と変わらないと受け取られかねないのが日本のアーツカウンシルの現状です。

アーツカウンシルというのは国の単位のみならず、各自治体にもあります。ない自治体もありますが、大阪にはあります。それが私の所属する「大阪アーツカウンシル」です。大阪の場合は日本の他の地域と異なり、オリンピックがきっかけではなく、地域政党の維新の会の行政改革推進と関りがあります。これについてはいろいろ考えるべきところなんですけれども、今日の話題ではないので別の機会にお話しできればと思います。つまるところ、アーツカウンシルとは、公的な機関なんです。しかし、政治とは距離を置いているという、民間ではない公共の立場で、公的文化支援がミッションということです。では、そもそもなぜ公的文化支援が必要なのか、根本的なことからお話ししたいと思います。

■なぜ公的文化支援が必要なのか
まず、「文化権」について話します。文化とは何か。芸術も含む人間の営みです。つまり、映像アーカイブも文化のひとつです。日本国憲法第25条では「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」とあります。憲法だと日本国民しかフォローされていないんですけれども、世界人権宣言の第27条では「すべて人は、自由に社会の文化生活に参加し、芸術を鑑賞し、及び科学の進歩とその恩恵にあずかる権利を有する」とあり、さらに「すべて人は、その創作した科学的、文学的又は美術的作品から生ずる精神的及び物質的利益を保護される権利を有する」と続き、創作したものに対する権利もあります。では、日本の法律を見てみましょう。文化芸術基本法が2001年に制定され、2017年に改定されています。この基本理念の第2条では「文化芸術に関する施策の推進に当たっては、文化芸術を創造し、享受することが人々の生まれながらの権利であることに鑑み、国民がその年齢、障害の有無、経済的な状況又は居住する地域にかかわらず等しく、文化芸術を鑑賞し、これに参加し、又はこれを創造することができるような環境の整備が図られなければならない」とあります。

ここで、日本の法律の文化概念に映像アーカイブが含まれていなかったらどうしようと思われるかもしれません。ご安心ください。文化芸術基本法には芸術ジャンルとして、映画やメディア芸術、出版やレコード等が記載されています。「映像アーカイブ」という言葉そのものはありませんが、このようなジャンルの一項目として、映像アーカイブが存在し得るということです。また、改定されたときに実は増えたジャンルもありますので、もし映像アーカイブが政治的な力を持っているのなら、この中に映像アーカイブというジャンルを足すことができるかもしれません。日本の法律においては「年齢や障害の有無、経済的な状況又は居住する地域にかかわらず等しく、文化芸術を鑑賞したり、参加したり、創造することの整備」を国や自治体が行わなければならないという大前提があって、アーツカウンシルがあります。人々の文化権に基づく国や自治体の文化事業が政治権力の言いなりになってしまわないように、アーツカウンシルという仕組みがあるんです。その仕組みこそが、芸術支援なんですね。多くの人は芸術支援というと、お金で援助してくれるのかとお思いでしょう。今回のタイトルの「資金調達」という言葉を元に、私がここに登壇したのもたぶんその理由からだと思うんですけれども、アーツカウンシルにとって金銭的な支援は目的ではなく手段です。芸術が自律的にあるために、必要ならばお金で援助する、施設や場所を提供する、あるいは必要な専門人材を育てる等、実は方法は様々であり、資金援助はその一部です。

■大阪アーツカウンシルの活動
それでは、大阪アーツカウンシルの活動内容を見ていきましょう。位置づけや成り立ちは省略します。
評価や審査、それから調査や企画等、様々な活動があります。お金は手段ですと言いながら、この中でいちばん大きな影響力があるのは補助金や助成金の審査なんですね。事業視察もしています。

大阪アーツカウンシルでは大阪府と大阪市双方に関わっており、補助金や助成金等の支援が全部で5種類あります。ちなみに、支援には一般的に3つ(事業支援、団体支援、個人への支援)が想定されますが、公的でも民間でも芸術支援の多くは事業支援なんですね。大阪の場合は、5種類のお金の支援のうち4つが事業支援で、残る1つがふるさと納税を使っている団体支援(登録団体の中からふるさと納税で支援先を選んでもらう)です。この4つの事業支援の中から、2018年と2019年の内訳を見ていきましょう。

いずれの年も採用件数230件弱で、支援総額6,500万円ほど、いろいろなバランスでやっています。全体で「映像」や「アーカイブ」に分類される数はごくわずかで、基本的には演劇や音楽がほとんどです。

まず、「映像」で採択されたものを見てみましょう。2018年度と2019年度に「映像」や「映画」で申請して採択された団体(美術分野は除く)はのべ11件、うち映画祭8件、ワークショップ1件、上映会1件、そして、アーカイブは1件のみです。大半が映画祭ですね。

次に、「アーカイブ」の採択事業はのべ5件で、演劇1件、古典芸能3件、映画1件です。演劇枠の「維新派アーカイブス」は劇団の記録映像をアーカイブしているので、映像アーカイブに近いと言えますが、それ以外のアーカイブは実演芸術と相性がいいということが分かると思います。そして、映像とアーカイブの双方に関わるものは、貴田明良さんの「大阪市の映画絵看板と映画文化のアーカイブ事業」の一点のみなんですね。

■事例紹介:「大阪市の映画絵看板と映画文化のアーカイブ事業」
ここからは事例として、貴田さんの映画絵看板アーカイブ事業を具体的に見ていきたいと思います。ちなみにこの助成金は1/2助成で、映画絵看板アーカイブは総予算600万円、助成希望額300万円で申請されたんですけれども、初年度で達成できる量が分からなかったので半額の150万円で始めていただきました。

大阪東映劇場 1958年 提供:貴田明良

貴田さんにお話を伺ったところ、現在の作業は、映画絵看板に関する写真ネガや紙焼きの約2,000点のデジタル化、リスト作成(カタロギング)、それから映画館マップへのマッピングです。1959年に大阪市には約300の映画館があったということですから、相当な作業だと思います。それから写真に関わる著作権に関する情報整理を行い、必要な著作権処理をしているそうです。今後は映画館についての情報整理と、映画看板の工房での師弟関係や協力関係の情報整理が必要だとおっしゃっていました。それから新たな展開としては、書籍出版ができたということです。助成金を出す側としては、こうした新たな展開を波及効果と考えています。書籍化が素晴らしいのはもちろんなんですけれども、助成金は基本的には赤字補填なんですね。総額の中で足りない部分を赤字補填しているんですけれども、目指すところは、この事業からより大きな効果を市民に対して生んでもらうことですので、文化投資の要素があります。なので、当初の目的を超えた新たな展開を招き、より多くの人々に届く内容になったということは高く評価したいと思います。もう一点、話を伺って分かったことは、できあがったアーカイブの寄贈先が国立映画アーカイブに決まっているということだったんですけれども、同時に大阪市にも残したいという希望があったんです。アーツカウンシルは事業の成果として成果物をいただきますけれども、それはあくまで報告書の一環、行政資料としてしかもらわないので、ある期限がきたら廃棄してしまう前提です。大阪市立図書館にも問い合わせているそうですが、前例がないということでこれからどうやって進んでいくのかなというところです。

お話を伺っていて気づかされたことは、「映画絵看板のアーカイブは映画文化のみならず、近現代の都市文化(人、街、表象、行為等)のアーカイブという副産物がある。作業することで新たな資料の発見、法律等の手続き、周辺調査等、作業量が増えていくので、当初の計画よりも長期に及ぶ可能性がある。新たな展開がある。アーカイブの収集物の所蔵場所について考えておく必要がある」ということです。

■公的支援へのアプローチ
最後に、公的芸術支援へのアプローチについて話をして終わりにしたいと思います。
最初にすべきは「支援情報を集める」ことではないでしょうか。たとえば「ネットTAM」というトヨタのアートマネジメントの総合情報サイトでは、かなり詳しい助成金リストが掲載されています。そこから、対象地域や規模、内容が合う助成金を探すことがまずひとつかなと思います。補助金や助成金の特徴として、基本的に単年度、つまり1年限りの支援なんですね。中には継続するものもありますが、基本的には1年の計画を考えることが必要です。また、だいたいにおいて、助成金額は対象経費の1/2です。自己負担金の用意、あるいは他の資金調達との併用(たとえばクラウドファンディングや他の助成金)を考える必要もあります。それから、申請時期が秋頃に集中しています。申請準備が間に合わないこともあるので、1~2年先の計画で動く必要があります。

さらに、各地のアーツカウンシルに相談してみるのはどうでしょうか。助成金がなかったとしても、各地のアーツカウンシルでモデル事業やパイロット事業のための予算を持っている場合があります。なので、そこにプレゼンテーションして、そこから事業が始まることもあります。各アーツカウンシルが、オリンピックが終わった後の生き残りをかけていますので、もしかしたらすごく協力的に「やりましょう」と言ってくれるかもしれませんし、冷たいところがあれば「冷たいな」と思いながらやっていけばいいと思います。また、クラウドファンディングとの役割分担について考えると、瞬発力とか資金調達方法の開発力は断然クラウドファンディングの方が高いと思うんです。一方で公的芸術支援というのは時間がかかりますし、宣伝やPRも地味なんですね。ただ、公的な結びつきがあるということで、ネット世代ではない高齢者の方々には「ここの助成金もらっているのか」ということで信用につながります。実際にクラウドファンディングの方が多くの支援者がいたとしても、です。公的な助成金をお墨付きとして獲得して、さらにクラウドファンディングをするという方法も最近よく見かけます。以上、思いつくままに公的芸術支援における映像アーカイブの可能性をアーツカウンシルの視点からお話ししました。

羽鳥:ありがとうございます。僕も現在、劇団「新国劇」の歴史を記録しようと孤軍奮闘中ですが、実演芸術とアーカイブ事業の親和性のお話に勇気づけられました。最後に廣安さん、よろしくお願いします。

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