COMMUNITY 「映画の保存と復元に関するワークショップ」の記録

トークセッション「映像アーカイブのための資金調達の壁を突破する!」

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■クラウドファンディンを踏み台に、先のある資金調達を考える

廣安ゆきみ: はじめまして、READYFOR株式会社の廣安と申します。READYFORはクラウドファンディングの会社で、私は主に文化芸術に関するプログラムをサポートする部署で働いております。今回は映像アーカイブに限らず、広く文化芸術に関する資金調達についてお話しします。

クラウドファンディングという言葉を初めて聞いた方はいらっしゃいますか? あまりそれはないですかね。クラウドファンディングで支援したことがある方はいらっしゃいますか? こんなに! ありがとうございます。数年この仕事をしていますが、年々手を挙げてくださる方が増えていて、非常にありがたいなと思っています。

■クラウドファンディングとは
クラウドファンディングとは「crowd=たくさんの人」と「funding=資金調達」を掛け合わせている言葉です。ネット上に「こういうことをやりたい」というプロジェクトの内容を掲載して、そこに賛同する方々がインターネットを通して、お金を預けてくださるという仕組みです。基本的なところとしては、必ず始める前に目標金額と期限を設定します。そして、その期限の日までに目標金額をきちんと達成できるかどうかの勝負となります。

作成:廣安ゆきみ 2019年

それから、必ず金額に応じて、返礼品と言いますか、お返しを用意するのもクラウドファンディングのひとつの特徴です。寄付額が高額になればなるほど、お返しがちょっと豪華になったりします。とはいえ、あくまでモノがほしくて支援するという、ふるさと納税で高級なお肉がほしいみたいなものとは支援の動機が異なるので、返礼品は高くても寄付金額の10%ぐらいに収めています。ほとんどは支援の気持ちで、御礼として少し気の利いたものが返ってくると嬉しいよねというものです。

クラウドファンディング自体はアメリカで発祥したサービスでいまや世界中にあるのですが、日本国内でも100以上のプラットフォームがあり、全国的に規模が大きいのはREADYFOR、CAMPFIRE、Makuakeあたりです。また、A-port、MotionGalleryのような特価型と言われるプラットフォームもあります。たとえば、A-portは母体が朝日新聞社だったりとか、MotionGalleryは映画製作のプログラムや支援者が集まりやすかったりとか、何かに特化しているプラットフォームです。他には、「地方型」と呼ばれるものがあり、地方新聞がその傘下でやっている事業でプロジェクトの実行者も支援者もその地域の方という、地域参画型のクラウドファンディングサイトも出てきています。いずれもどのように経営が成り立っているかはそれぞれですが、基本的には集まった寄付金の一部を手数料として取るビジネスモデルが多いです。弊社も同じ仕組みで、達成した際の手数料として、基本的に17%をいただいています。

■READYFORの特徴
READYFORのいちばんの特徴は、日本で最初に生まれたクラウドファンディングサイトだということです。それだけたくさんのプロジェクトに携わっていますし、働いている社員も経験が蓄積されています。

もうひとつは、プロジェクトごとに必ず一人、専任のキュレーターがべったりサポートするということです。一般的なクラウドファンディングのサイトでは、自分でブログを投稿するような形でプロジェクトを申し込んで、オンラインでページを作り込み、自分で公開をしてというような、自己完結型というか、自由にできますよというサイトが多いんですけれども、弊社はクラウドファンディングの経験がない初心者の方でも使えるようにという方針をとっています。そのため、弊社に申し込みをしていただくと、必ず最初に「担当者です」という人間が出てきて、1ヶ月くらいかけてプロジェクトの見せ方やリターン体系をご提案したり、ページを作り込んだり、どのように世の中に発信していくか広報をサポートしたりと、結構ウェットなやりとりを交わすのですが、そこがこだわっているポイントでもあります。私自身も、特にアート関係のプロジェクトの申請をいただいた際には、実際にその現場にお邪魔してフェイストゥフェイスでやりとりしています。

READYFORでは、目標金額に到達せずに募集期間が終わると、支援者に全額返金するという「All-or-Nothing」という方式を採用しています。目標金額にかかわらず集まった分だけお渡しする「All-in」方式を採用しているサイトもありますが、弊社がなぜシビアな「All-or-Nothing」型を導入しているかというと、2つ理由があります。

ひとつは、プロジェクトの信頼性の担保のためです。たとえば、2,000万円という壮大な目標を掲げて、最終的に30万円しか集まらずに終わってしまったとしても、「All-in」ではプロジェクト実行者はその資金を得ることができる。支援者からすると、一体何に使われるんだろうということで、プロジェクトの信頼性や真摯さに疑問を持たれてしまいます。いくら必要ですと謳った限りは、目標に到達するまで実行者にはきちんと責任を持っていただきたいのです。

もうひとつは「All-or-Nothing」の方が、最後に伸びが加速しやすいという側面があります。たとえば目標金額の66%まで集まると後半戦も見えてくるので、支援者の方々も「もう一口入れようかな、周りの人に宣伝してあげようかな」と最後まで応援する気分になったり、プロジェクトを実行する側も気の緩みなく最後まで走り抜きやすいという面があったりして、盛り上がりを醸成するため、ここにこだわっています。

また、各プログラムのページには、なぜ自分がこのプロジェクトに支援したのかという支援者の思いを書き込むスペースがあって、この応援コメント欄の充実ぶりも他社のサイトに比べると大切にしているところかなと思っています。

■なぜクラウドファンディングをするのか
クラウドファンディングを始める方から、「成功するプロジェクトと失敗してしまうプロジェクトの分かれ目はどういうところにありますか」というご質問をよく受けます。そういう場合、問い返しになってしまうんですけれども、「どうしてこのプロジェクトでクラウドファンディングによってお金を集めたいと思ったんですか」とお聞きしています。ここからの対話はすごく大事です。

そもそも資金調達の手段は他にもたくさんあって、助成金ももちろんそうですし、自己資金を出し合ったり、事業収益から捻出したり、企業協賛を募ったりという方法もあるわけです。あるいは、究極的にそれでもダメならあきらめるという選択肢もあるかもしれません。その上でなぜクラウドファンディングを選んだのか、プロジェクトの実行主体の方が、きちんと自分の中でその動機や目的を精査して落とし込んでいく作業が、プロジェクトの方向性を決める鍵となります。

クラウドファンディングというのは決して、コストパフォーマンスのよい手段、簡単にお金が集まる手段ではないんですね。オンラインにプロジェクトを公開した後も、プロジェクト周知のために広報宣伝していく必要もあります。実際に実行者の方々から「こんなに大変だったんだね」という言葉をいただくこともしばしばです。

作成:廣安ゆきみ 2019年

それでも、クラウドファンディングには他の資金調達の手段からは得られないような、付加価値といいますか、付随して得られるものがあると思います。プロジェクトの広報やPRに関わる付加価値もそのひとつです。たとえば100万円集めたときに一人あたりの支援額は1万円ぐらいになることが多いので、100万円のプロジェクトで100人の支援者が付いてくることになります。その方々を実行団体のファンや仲間づくりにつなげることもできます。

特に、非営利の文化活動をされている団体にとって、ファンドレイジング(資金調達)は常に課題ではないでしょうか。一般的に、寄付と事業収入と助成金が30%ずつの割合で獲得できていると団体運営としてベストだと言われています。ただ実際には、日本の文化団体の場合、助成金頼みになることが多くて、寄付をうまくとれている団体は少ないですね。そういった意味では、クラウドファンディングは、一般の方からお金を集めてみる最初のトライとしてはよい機会かもしれません。

■事例紹介: 継続的な支援者を獲得するために
クラウドファンディングを最初の資金調達の手段とした後、毎年ファンディングのプロジェクトを立ち上げて、継続的にその団体の寄付者を獲得している例をご紹介します。歌舞伎や映画の資料をたくさん所蔵していらっしゃる松竹大谷図書館では過去8年連続でクラウドファンディングを実施されていて、毎年250万円ほどの目標金額を達成されています。ここがおもしろいのは、毎年10月頃にプロジェクトを始めると決めていて、寄付者の50〜60%がリピーター、残りが新規だということです。このプロジェクトの特徴は、支援者に対して目標金額達成の御礼メールだけではなく、その後も月1回メールを配信して、寄付金でこのようにプロジェクトが進んでいますという報告をお金はかけないけれども手間暇かけて伝えているということです。その手間暇が、次の年に実施するときも支援者から「待ってました」と迎えられることにつながっています。

作成:廣安ゆきみ 2019年

もうひとつの事例は、京都の小劇場THEATRE E9 KYOTOのプロジェクトで、2年連続でクラウドファンディングに挑み、合計3,000万円近くを獲得されています。こちらの団体も1回目のプロジェクトを終えてから、支援者に経過報告を定期的に行い、1年後にもうひと押し資金が必要となって立ち上げた2回目のプロジェクトも見事に目標額を達成されました。

以上、長期的な支援者や仲間づくりも目的として考えられるという2つの事例をご紹介しましたけれども、プロジェクトによってはPRに力を入れるためだとか、これを機にSNS運用を積極的に使うきっかけとしたいというような目的があってもいいと思います。いずれにせよ、この「お金+α」をいかに意識して、クラウドファンディングの先を見据えて、プロジェクトを設計できるかどうかが非常に重要だということです。

ということで、皆さんの活動の中の課題を見直しながら、その課題のどういうところにアプローチできるプロジェクトが作れるかを検討して、クラウドファンディングをある種、踏み台として使っていただけるといいのかなと思います。個々のプロジェクトによって何が正解か、どういう手法がよいかはもちろん千差万別なので、クラウドファンディングにご関心がある方は気軽にご相談いただけたらなと思います。ありがとうございました。


羽鳥: ありがとうございます。最後にトークセッション全体を踏まえ、補足や締めの言葉をお願いします。

三好: 自治体に一緒にクラウドファンディングをやりませんかと投げかけても、前例のないことにはなかなか役所の方々は手を出したがらない。自治体のPRのためにも新しい手段を積極的に活用した方がいいと提案するのですが、そこに踏み切れないでいるのが現状です。今日、中西さんと廣安さんのお話を伺い、改めて大きな可能性を感じているので、近い将来、是非ご一緒させてもらえればと思います。

中西: クラウドファンディングの話はおもしろくて。最後に補足ですけれども、公共とか芸術支援というのは用意されているものではない、変化しないものでもない、作っていくものなんですね。芸術というのはそれにとても向いているものなんです。特に、私が映像アーカイブの中で思ったのが、作業をするための助成やプロジェクトへの助成はできるけれども、その収集物を保管するとか所蔵するというところに繋がっていきにくいということです。なので、どうやって支援を獲得するかという話も重要なんですけれども、助成金の仕組みを自分たちで作るというのもできることだと思うので、そういった仕組みを皆さんも作ってはどうですかと投げかけて終わります。

廣安: ありがとうございました。クラウドファンディングだけですべての資金を賄えるわけではもちろんないですし、それこそ助成金は赤字補填も1/2補填もあるというお話も伺ったので、今後、助成金とタッグを組んだプログラムもできたらいいなと思ったりしました。

中西: すでにタッグを組んでいる例はいくつかの自治体で起こっていて、クラウドファンディングで足りない部分を赤字補填という形で助成するというのも街づくりの現場ではあるそうなんですけれども、それにはたぶん議論も必要だと思います。公的支援でなければいけないというところに即しながら考える必要があるのかなと。皆さんの身近にもそのような事例は出てきていると思います。

廣安: ありがとうございます。今回は「資金調達の壁を突破する」というタイトルでしたけれども、今後も皆さんと力を合わせて可能性を探っていけたらいいなと思います。(了)

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